「新田くん!」


いくら負傷していないほうの手が残っているとはいえ、重みが全てその片方の手にのし掛かる。


指の力だけで止(とど)まっているだけだ。


その指も、ずるずると離れていき__。


「早くしてよ!」


まだ来ない死り神に向かって叫んだけど、相変わらずマイペースだ。


人間を追い詰めるのを楽しんでいるように。


「や、やめろっ!」


くぐもった声で、新田くんが吐き捨てる。


背中までにじり上がってきた賢太のせいで、体が左右に大きく揺れていた。


あと何回だろう。


何回、揺れれば、2人は落ちるのだろう。


もう時間がない。


どうすればいい?


どうすれば、新田くんを助けることができる__?


「田辺、ごめん」


「えっ⁉︎」


とうとう新田くんの指が、ずり落ちてしまった。


肩までやってきていた賢太が、必死で腕を伸ばす。


新田くんを踏み台にして、蹴り上げて自分だけ助かろうと屋上のヘリに手を伸ばした。


指がヘリを掴む。


わずかな可能性を掴んだ賢太の顔がぱっと輝いたけど、笑顔が貼りついたまま落ちていく。


新田くんと2人で、体を絡ませながら。


この高さから落ちたら即死だ。


好きなひとを、助けることができないの?


ううん、1つだけ助ける方法がある。


それは__。