「良かったら、食べる?」


賢太がハンバーグが乗った鉄板を、私のほうに押してよこす。


「いい」


それだけ言って、私は紫芋のパンケーキを食べた。


美味しいけど__味気ない。


響子も居ないし、新田くんも居ない。どうして賢太と2人きりで食べているのか。こんなことなら帰れば良かった。


「今、帰れば良かったって思ってるだろ?」


図星だったため、パンケーキが喉に詰まる。


レモンティーを飲んで胸を叩くと、賢太がけらけらと笑っていた。


「田辺は正直だよな」


「なによ、ほっといてよ」


軽く睨むと、賢太は肩をすくめる。


いつも卑屈に目を伏せているけど、こうして見ると意外と表情がある。


私が気づかなかっただけで。


「でも、寂しいよな?」


「なにが?」


「もうこうやって、笑うこともないだろうし」


賢太の言葉に、胸がずきんと痛む。


そうだ、新田くんと触れ合うこともできなくなる。


ゲームを退会してしまったからだ。


それでも、私は後悔していない。


またゲームで追い詰められ、危険な目に遭うなら、ゲームなんていないほうがいい。


たとえ、それで2度と新田くんと会えなかったとしても。


そのほうがいいんだ。