「きゃー!!!」

突然聞こえた高い、黒板を爪でひっかく様な声にビクリと体が跳ねた。

(…へ、何事!?)

どうやら私は何時の間にか眠っていた様で、つっぷして眠っていた布団から顔を上げれば寝癖のタップリと付いた私の前髪がピコンと跳ねた。

どれくらい眠っていたかなんて分からないけれど10分やそこらではないだろう。だって寝る前は濡れていた髪が今は乾いている。

キョロキョロと周りを見渡して眠る前と同じ部屋にいる事に不思議とホッとした。普通なら元の場所に戻っていない事に落胆するべきなのに。

(良かった、この子もちゃんと居る)

腕を辿れば今も確りと私と男の子の手は繋がっていて、ああ夢じゃなかったんだと確かめる様に繋いだ手に力を込めた。

「だ、誰か来て!不審者よ!早く、誰か」

再び甲高い声が空気を裂き、慌ててそちらに顔を向ければ口元を手で覆った女の人が立っていた。
朝を迎えたのだろう、カーテンが引かれた窓からは光が差し込み、逆光となっていて上手くその姿を捉える事が出来ない。

ただ、声とそのシルエットから女の人だと伺える。

違うんです。決して怪しい者じゃないんです。と言おうとしたところで、声が出ない事を思い出した。キュッと眉をしかめ、喉に手を当てる。

(そうだった、声出ないんだっけ…)

顔をしかめた私をどう捉えたのか、女の人の身体が強張ったのが伝わった。
その目が繋がれている少年と私の手に視線が移り、ぎょっとした様に違った意味で空気に緊張が走る。こんな状況なのに少年が目を覚ます気配はなかった。

「…っ王から離れなさい!寝室に侵入するだけでは飽きたらず、侵入者の分際でその穢らわしい手で触れるなどっ」

なんとか気丈に振る舞っているのが分かる。震える声に、私がどう思われてるのか理解して、違う違うと激しく首を振るしか出来なかった。