緋色は望と同じように庭に視線を向ける。そして、雲1つない夏の快晴を見上げた。


 「………茜は20歳になる時に養子だという事を伝えるのは止めようと言ったんだ。………緋色が落ち着いてからでいいんじゃいかな、とね。けれど、私はいつお前に伝えればいいのかわからなかった。そんな時、おまえが事故に遭い記憶を失った。……やっと普通の生活を過ごせるようになったのに、話してもいいものかと思ったが。………記憶の混濁もなくて安心したよ。………泉くんが居てくれてよかった。本当に………。」


 緋色はポロポロと涙が流れ始めた。

 両親の気持ちが、じんわりと心に染み込んできたのだ。
 養子だった事は戸惑いしかない。
 けれど、大人になってからわかること。それは、きっと楪家に来て自分は幸せだったのだという事だ。
 本当の親は知らない。けれど、その本当の親の代わりに、もしかしたらそれ以上の愛を望と茜はくれたはずだ。
 そうでなかったら、養子の話を聞いた瞬間のショックはもっと大きかったはずだ。記憶を失っていたとしても、緋色はそう思った。