大通りではないのでそのまで人が多くない裏路地にある店。少し薄暗いので、緋色は早くここから離れよう、そう思った。
大通りへはすぐだったので、緋色は少し駆け足で歩いていく。古くさいカビやタバコの香り、甲高い若い女性の笑い声や、男性の怒鳴り合う声。そこから逃げるように明るい場所へと向かった。
表通りに出ると、いつもの夜の街だった。
平日の夜なのに、沢山の人が忙しそうに歩いている。手を繋いで歩くカップルや、顔を赤くしたサラリーマンの集団。部活帰りのジャージ姿の学生。緋色は普段通りの街並みに、ホッとしながら歩きだそうとした。
「あれ?もしかして、緋色ちゃんじゃない?」
「え…………」
名前を呼ばれて振り向くと、同い年ぐらいの女性が手を振りながらこちらに走ってきていた。緋色はそれが誰なのか思い出せない。きっと、記憶を失う前の知り合いなのかもしれない。緋色はどうしていいかわからずに戸惑ってしまうが、相手の女性は構わず近くに寄って来て話し始める。