「はぁー………。」


 大きなため息をついてしまう。
 すると、隣のデスクに座る先輩の愛音が「どーしたどーした?」と、笑顔で話し掛けてきた。
 緋色は驚きながらも、仕事に集中しないで上の空になっていたのに気づき、「すみません!」と、パソコンのキーボードに手をのせた。
 すると、愛音は「違う違う。」と、笑いながら椅子をこちらに寄せて緋色に近づいてきた。



 「婚約した女の子がため息なんて、どうしたの?今日も婚約指輪してないし。」
 「仕事にしてくるのは、やっぱり気になって………目立つデザインですし。」
 「婚約したって幸せを満喫する時期なんだから気にしなくていいのに。それに、あんなにイケメンの旦那様なのに。」
 「…………私には勿体ないぐらいの相手です。」
 「………なるほどね。」



 緋色がシュンとしている姿を見て、愛音は何かを察したのか、ジッと緋色を見てからポンポンッと優しく肩を叩いた。


 「今日は外でランチしましょ。私の奢りよ。」
 「え、そんな………。」
 「いいからいいから。私が誘ったんだから、気にしないで。ランチまでの時間で、その仕事終わらせましょ。」
 「わかりました。愛音先輩、ありがとうございます。」


 緋色が丁寧に頭を下げると、愛音はニッコリと笑って自分のデスクに戻っていった。
 緋色は心の中でも愛音に感謝の気持ちを伝え、残りの仕事を終わらせようと、パソコンの資料に集中した。