「だ~いじょぶですよぉ。だってほら、ちゃんとろれつ回ってるでしょ?」

「ろれつは回ってても、頭は回っていないらしいがな」


眉間にシワを寄せた彼はうまいツッコミを入れ、なぜか私の前に跪く。そして、おとぎ話の王子さながらに私の足を軽く持ち上げ、履いていたスリッパを脱がし始めた。

なにをするのかと心臓がぴょこっと跳ねたのもつかの間、別のスリッパを履かせられてはっとした。

……私、トイレのスリッパを履いたままここへ来ていたらしい。

ひとり爆笑する私に、和服の王子様はげんなりした様子だが、履き直させてくれるところが優しい。

ダイニングテーブルのほうから、私たちを眺めている藪さんの緩やかな声が届く。


「希沙ちゃんも慣れない生活でストレス溜まってるんじゃねーの。今夜くらい大目に見てあげな」

「そうですよ。特に今日は、厄介なおばさま方に洗礼を受けちゃったし」


コップを持ってこちらにやってくるほのかちゃんも、苦笑を交じらせて言った。

「洗礼?」と周さんの怪訝そうな声が聞こえたものの、彼女にコップを差し出されたのでとりあえずそれをいただく。