「私は思いませんよ。だって泰永さんは、女性に興味のなさそうだったあの一柳さんが、初めて結婚を意識した人なんですから。身なりは関係ありません」


力強く言い切った彼女の言葉に、自信をなくしかけていた心が勇気づけられる。

そうか、周さんが結婚しようと思った女性は他にいないのか。私だけ、なんだ……。

考えていたら、ほんのり頬が熱くなってくる。にこにこしているほのかちゃんに気づかれていたら恥ずかしい……と俯き気味になったとき、邸宅の中から藪さんがやってきた。


「お、ほのちゃん。お疲れ」

「藪さん！　お疲れさまです」


彼らは挨拶を交わし、親しげに話している。ふたりとも周さんの家に出入りする立場だから、もしかしたら家で顔を合わせることも多いのかもしれない。

年はひと回り以上離れているのに、友達のように仲のいいふたりを見て和んでいると、藪さんがなにかを思いついたらしく、口をぱかっと開ける。