深いため息を吐き出したとき、厨房からやってきた藪さんに「希沙ちゃん」と呼ばれる。


「明日の調理の確認しておくから、ちょっと待っててくれる? 俺もこのまま一緒に一柳家に行くから」

「わかりました」


笑顔を作って返したものの、彼が背を向けるとすぐに表情は強張る。

熟女三人組から〝帰れ〟オーラが出ている気がするし、いつまでもここに突っ立っているわけにいかない。車のほうに戻って待っていよう。

後味の悪さを感じながら、仕方なくエントランスに向かう。そうして一歩外に出たときだ。


「あの、泰永さん!」


後ろから聞き慣れない声に呼ばれ、ぱっと振り返る。小走りで近づいてきたのは、袴姿の小柄な女の子。

さっきは見えなかったから、厨房のほうにいたのだろうか。私よりも若そうな、とても愛らしい顔立ちの子だ。一体どうしたんだろう。


「えっと……」

「私、栗山ほのかといいます。時々、一柳さんのご自宅のお掃除をさせてもらっています」


彼女はにこりと微笑み、ひとつに結んだふわふわの長い髪を揺らしてお辞儀をした。私は新たな事実に驚き、目を見開く。


「あなたがお手伝いさん!?」

「はい。ワケあってそうなりました」