笑いたくなるのを堪えているうちに、彼は電話を切った。ひとつ息を吐き出し、私に事情を説明してくれる。


「俺の実家、キャベツ農家なんだけどさ。従業員の野郎の奥さんが産気づいたらしい」

「そうなんですね! 全然関係ない私がそわそわしちゃう」


知らない人であっても、新しい命が産まれるのはとても喜ばしいことだし、頑張ってほしい。

藪さんはすでに落ち着いた様子で頷き、「無事を祈っとこう」と言って微笑んだ。そしてスマホをポケットにしまうと、なぜかシンクに両手をついてため息を吐き出す。


「しっかし、これであいつが抜けてまた人が足りなくなっちまった……」

「ああ、農家のほうですか?」

「そう。今、春キャベツの収穫真っ只中で忙しいんだよ。俺もこうして休みの日にわざわざ手伝いに行くハメになるし」


なるほど、藪さんがラフな格好をしているのは、本当に農作業を手伝うからだったのね。

人手が足りなくなることはわかっていただろうに、迷いなく出産する奥さんのもとへ行けと言えるのは、人としてカッコいい。

ますます尊敬していると、彼は気を取り直したように背筋を伸ばし、こちらに向かってくる。