「『たまに料理を振る舞ってくれる男がいる』って周さんが言ってたんですけど、藪沢さんのことだったんですね」

「そうそう。周が学生の頃から、一柳家のお抱えシェフみたいなもんだったんだ」


そんなに前からの付き合いなんだ。それならふたりの仲がいいであろうことも、藪沢さんが私のことを知っているのも納得する。

へえ~と頷く私に、彼は「あ、〝藪さん〟でいいよ。皆そう呼んでるから」と気さくに言う。

めちゃくちゃ話しやすいし、好感の持てる人だな。周さんとは正反対。

堅物な貴族様の顔を思い浮かべてクスッと笑い、「わかりました」と答えた。

藪沢さん、改め藪さんは、手に持っていたビニール袋をひょいと掲げてみせる。


「今日はいい筍をもらったから、ひと仕事する前にお届けしようと思ってね。ちょっとキッチンに運ばせてもらっていい? また調理しに来るよ」

「わあ、ありがとうございます!」


藪さんの手料理が食べられるなんて嬉しすぎる。もちろん二つ返事で了承し、中へ入ってもらった。

彼は慣れた様子でキッチンに向かい、すでにあく抜きしてある筍を冷蔵庫にしまっている。ひと仕事すると言っていたし、お茶を飲んでいる時間はないだろうか。