「君が周に見初められた芋娘……じゃなくて茶娘さんか。普通に可愛いじゃないの」


ん? なんか余計な言葉が多くないですかね。〝芋娘〟とか〝普通に〟とか。まあ、深くは気にしないでおこう。

どうやら周さんから私のことを聞いていたみたいだ。呼び捨てだし、仲がいいのだろうか。そもそも、なんの用事でここへ?

いろいろと聞きたいがなにから切り出そう、と迷っている私に気づいたのか、彼のほうから話しだす。


「あー悪い、自己紹介がまだだったな。俺は藪沢(やぶさわ) 寛太(かんた)、総料理長を務める三十八歳独身です」


ご丁寧にプチ情報までつけ加えてくれた。独身なのは意外だが、総料理長という立場にはさらに驚く。

私は尊敬の眼差しを向け、改めて挨拶をする。


「どうも、泰永希沙です。昨日、レストランでお料理をいただきました。カツレツ、とっても美味しかったです!」

「それはよかった。あんたのお口に合わないんじゃ、もうここに飯作りに来れなくなっちまうからな」


カツレツは心晴さんが作る家庭的なものとはまた違い、プロの味がして感動したのだが、それはひとまず置いておいて。嬉しそうな顔をする彼の言葉で、新たなことがひとつわかった。