私が引かないからか、笠木さんは眉をひそめた。


困らせてしまったのは申しわけないけれど、これだけは譲れない。


笠木さんと出会わなければ、笠木さんに厳しく言われなければ、私は変われずにいた。
変わったのは、ここに来たからだけではないのだ。


「……まあいいや。色は、一週間ゆっくり考えるといい。じゃあな」
「はい、また明日」


去っていく笠木さんの背中に手を振る。


笠木さんの姿が見えなくなると、急に足に力が入らなくなった。


まるで、緊張から開放されたような感覚。
だけど、暖かい気持ちになっていて、顔がにやけてしまう。


今日はよく眠れそうだ。





「おかえりなさい、お嬢様」


家に帰ると、奈子さんが出迎えてくれた。


「ただいま、奈子さん」


奈子さんがカバンを受け取ってくれるけど、奈子さんは私の顔を見つめてくる。


「お嬢様、なにかいいことありました?」
「……どうして?」


動揺が隠しきれていないように思うけど、一応聞いてみる。


「頬が緩んでますよ」


奈子さんは私の頬に触れた。


落ち着かせて帰ってきたはずなのに、気付かれてしまって両手を頬に当てる。


「私、そんなにわかりやすい……?」