「校則違反だけじゃない。家も厳しいだろ」
「……わかってます。言ってみただけです」


笠木さんはもう一度私の髪に触れる。
今度は毛先で、触れられた感覚はないはずなのに、また心音がうるさくなっていく。


「毛先だけ、染めてみるか」
「え……」
「やりたいことを我慢するのは、好きじゃないからな。お嬢様が本気でやりたいって思ったなら、染めるのもあり」


笠木さんはいい笑顔を見せてくれる。


「今、校則違反だとか、家のこととか言って反対されましたよね……?」


笠木さんの笑顔が固まる。
そして私の髪から手を離し、私に背を向けた。


「それは……あれだ。気のせい」


私が笠木さんの正面に移動すると、笠木さんは目を逸らした。
どうしても目を合わせたくて、笠木さんの周りを一周する。


「……どうして目を合わせてくださらないのです」
「お嬢様が可愛くて直視できないのですよー」


冗談だとわかっているのに、足が止まってしまった。


「い、今さら何を……」


私が戸惑っているのを見て、笠木さんは笑っている。
なんだか笠木さんの策にはまったような気がして、悔しくなる。


私は頬を膨らませた。


「そんなふてくされるなよ」