ちょうど横から風が吹いてきて、髪がなびく。
笠木さんの表情は見えにくくなってしまった。


私の髪も風に煽られ、髪を押さえながら俯く。


「……本当、ですか?」
「なに?そんなに俺を病気にしたいのか?」


そういうつもりではないし、むしろ健康体でいてほしい。


首を横に振って否定する。


「朝、言っただろ」


笠木さんは私の髪にそっと触れ、顔を上げた。
笠木さんとの距離の近さに思わず目を逸らす。


「俺は元気だって」
「そう、ですね」


心臓の音がうるさくなっていく。


笠木さんと一緒にいることができて嬉しいはずなのに、どうすればいいのかわからなくなってくる。


それが伝わったのか、笠木さんは手を離してくれた。


「話はそれだけか?」
「はい……あ、いや」


もう少し一緒にいたいと思って引き止めたものの、話す内容がない。
それなのに、笠木さんは私が話すのを待ってくれている。


なにか、笠木さんに話したいこと……


「……髪を、染めてみたい……」


笠木さんの金髪が目に入り、そう呟いた。


笠木さんの表情が固まり、そして声を上げて笑った。


「本気か?お嬢様」


自分で言っておきながらなんだが、自分でもそう思う。