「ったく……なんであんな奴が……」


笠木さんがいなくなっても、先生は小さな声で文句のようなものを並べた。


「どのようなお方なのですか?」


単なる好奇心のようなもので聞いたが、先生はこの世の終わりのような顔をして、私のほうを向いた。
言ってはいけないことを言ったのだろうか。


「決して!あいつには関わってはいけません!」


少しずつ、視線が落ちた。


先生は、私を見ていない。
私の後ろにいる、お父様を見ている。


私の身分を知っているからこその対応なのかもしれないが、それではここに来た意味がない。


「……わかりました。ところで先生。あのお約束は覚えておいでですか?」
「もちろんです」


先生は私の言う意味がよくわかっていないように、首を傾げながら答えた。


「いえ、わかっていらっしゃるなら結構です。ただ、今の態度ではそう見えなかっただけなので」


先生は目を見開き、泳がせた。


厳しいこと、わがままを言っているのはわかっている。
だが、これだけはどうしても譲れない。


すると、先生は咳ばらいをした。


「……職員室はこっちだ」


私が悪い方向に進むよりも私の願いを聞けないことのほうが大変なことになると察したのか、先生から敬語が消えた。