「お嬢様?見たこともない庶民に驚いてんのか?」
「ち、違います。あなたの髪色……」
「ああ、こっちか」


彼は自分の髪の毛先を触った。
そしてゆっくりと私に近付いてくる。


私は彼に目で捕まえられたような感覚になり、動けなかった。


「触ってみるか?」


自分でも驚くくらい、硬い動きだった。
彼の髪に触れようと、手を伸ばす。


「小野寺さん!」


あと少しで触れようかというところで、名前を呼ばれてしまった。
声がした方を見ると、いつの日か家に来ていた教師が立っている。


鬼のような形相で私たちに近付いてくる。


「小野寺さんに何をしようとしていたんだ、笠木(かさき)!」


笠木と呼ばれた彼は、小さくため息をついたと思えば、そんな教師を鼻で笑った。


「別に?」


盛大に教師を馬鹿にしたような表情。
自分のしたことのない表情に、憧れのようなものを抱いてしまった。


「小野寺さんはな、お前みたいな奴とは違うんだよ!」


差別的な発言に、胸が痛む。
結局どこにいても私の扱いは変わらないのだと、やるせない気持ちになる。


「……知ってるっつーの」


笠木さんはそうこぼすと、中庭の木を通り過ぎて、どこかに行ってしまった。