「たしかに、君の経歴には問題があるが……娘の婿になるのなら、跡を継いでもらう。厳しくするから、覚悟しておくといい」


私にも向けられたことのない笑顔が、笠木さんに向く。


「おお、怖い」


二人が笑い合っているのを見て、私はどうしてここにいるのだろうと思った。
今すぐにでも帰りたい気分だ。


手のひらに爪がくい込むほど拳を握ると、回れ右をした。


「円香」


だけど、すぐに笠木さんに呼び止められた。


「もう帰るのか?」
「……私が来ても、意味がなかったみたいなので」


すると、笠木さんは吹き出すように笑った。
今のどこに笑う要素があったのか、さっぱりわからない。


私はさらにふてくされた。


「ごめんって、そんな怒るなよ。俺は円香が会いに来てくれて嬉しいよ?円香がいなかったら、俺はただの嘘つきだったろうし」


なぜ笠木さんが嘘つきになるのかわからなくて、首を傾げる。


「円香を好きだっていうのが演技だって思われてもおかしくなかったんだよ。円香の好意を利用する、最低な男になるところだった」


説明されても、いまいち理解できない。


「笠木さんは素敵な方ですよ?」


わかっていないまま、そう返した。


「いや、うん、そういうことじゃ……まあいいか」