笠木さんの頭を撫でながら、一筋の涙を流した。


希実さんはゆっくりと笠木さんから離れる。


「玲生はお金の心配をしてくれてたみたいだけど、ちゃんと貯めてるよ。玲生が手術したくないって言ってただけで、私は手術受けて欲しいって思ってたから」


一瞬得意げな表情を見せたが、すぐに曇ってしまった。
そしてお父様に向かって深く頭を下げた。


「それでも、玲生の手術費には少し足りません。不足分だけ、貸していただけないでしょうか」


お父様は希実さんの体を起こした。


いつも、冷たい目しか見たことがなかった。
お父様は仕事人間で、笑顔なんて知らなかった。


「初めからそのつもりですよ」


だけど今日、生まれて初めてお父様が微笑んでいる姿を見た。
そんなふうに笑うのかと、静かに驚いた。


「ありがとう、ございます」


希実さんはもう一度頭を下げた。


「君は病気が治ったら、うちの会社に来なさい」


お父様に言われ、笠木さんは目を見開いた。


「元不良で、高校中退した人間を雇う気か?」


笠木さんが不良だと言われていたのも、高校を中退したのも、理由があるはずなのに、笠木さんはそれを言わない。


ただ、事実だけを述べた。