お父様は不思議そうな顔をして首を捻る。


「家族なら……とか言っていただろう」
「うん……でも、返すよ」


笠木さんが笑顔を返すと、お父様は希実さんのほうを見た。


「私は二人が結婚しなくとも、手術費を出そうと思います」


耳を疑った。


「彼が生きることで、娘が幸せになるのなら、いくらでも」
「そんな、申し訳ないです」


首を振る希実さんは、顔を赤くしている。


「私が……頼りないから……」


希実さんは消えそうな声で呟くと、俯いた。


私は希実さんの言っている意味がわからなかった。
どうして希実さんはそう思ったのだろう。


「違うよ、母さん」


笠木さんはズボンを強く握りしめている希実さんの手に触れた。


「母さんは俺のためにすごく頑張ってくれてる。でも、頑張りすぎて疲れているところを見るのは、俺がつらい。俺が、これ以上母さんに負担をかけたくないって思ったんだ」


希実さんは笠木さんの手を強く握り返した。


「玲生のことで負担に思ったことなんて一度もないよ」


笠木さんはそれでも苦しそうな表情を浮かべる。


「玲生が生きたいって思ってくれて、すっごく嬉しいよ」


さっき言えなかった言葉を伝えると、希実さんは笠木さんを抱きしめた。