先生に促されて、コップが前に置いてある席に座る。
透明のプラスチックで桃色の水玉模様がデザインされたコップは、とても可愛らしい。


先生は自分の机に置いていたカップを取ると、私の左斜め前に座った。


「コーヒーは?」


先生が話始めるより先に、笠木さんの声が聞こえてきた。
起きてコップの中身を確認して、不満そうにしている。


「そんなものありませんー。いつも言ってるでしょ?」
「じゃあ、汐里さんが飲んでるのは?」
「紅茶よ」


先生が答えると、笠木さんは綺麗に舌打ちをした。
そしてコップに手をつけることなく、また横になった。


「お二人は仲がいいのですね」
「いとこなの」


二人の距離の近さも、腑に落ちた。
従姉弟ならば、下の名前で呼び合ってもおかしくない。


「私からも質問いい?小野寺さんはどうしてここに転校してきたの?」


コップに伸ばしていた手が止まった。
先生の表情を伺うと、少し首を傾げられた。


きっと深い意味はないのだろう。
だから、適当な理由を言っても問題はないと思う。


だが、変に間を作ってしまったせいで、先生から笑顔が消えた。


「悩みごとがあるなら、聞くよ?玲生くんがいて話しにくいって言うなら、追い出すし」