はっきりと顔に出たのか、坂野さんが目を泳がせた。


「いや、ほら……高校生が行ったらいけないところに連れていかれたりしたらいけないし、なんか薬も飲んでるって聞いたから……」


坂野さんが心配して言ってくれたのだとわかっても、一度生まれた感情が消えてくれない。
人の優しさを、素直に受け止められない自分が嫌になる。


しかし、これ以上坂野さんに罪悪感を抱かせないために、笑顔を取り繕う。


「心配してくださって、ありがとうございます」
「ううん。なんか、ごめんね」


それからお互いに気まずくなったまま、一時限目の古典の授業が始まってしまった。


授業が終わり、教科書をしまっていたら、坂野さんが振り返った。


「小野寺さん、一緒に移動しよう?」


坂野さんの机の上には生物の教科書が置いてある。
生物室の場所がわかっていなかったため、この誘いはとても助かる。


また、迷子になるところだった。


「はい」


私も立ち上がり、生物の教科書と筆箱、ノートを両手で抱える。
東雲さんは出入り口付近で私たちを待ってくれていた。


先程の気まずさを未だに引きずっている私は、二人から一歩後ろを歩く。
だけど、二人はときどき私に話しかけながら会話を進めた。