「はあ、今日は雨かあ」

雨が窓を叩く音、そしてその様子を見ながら桜はふうっと溜息をついた。

その様子を見ると、強いと言うわけでも弱いと言うまでもなくいつも降っているような雨だった。

「本当だ。桜、今は傘ちゃんと持ち歩いてる?」

「うん」

尚の部屋で、2人は音楽を聴きながら過ごしていた。

尚がフランスに戻るまで後1週間になった。

尚の部屋から見える空は、当たり前だが、澄み渡る水色ではなく、今日はグレーの色をしている。

尚はそんな空を見ながら、桜に話しかけた。

「なんか飲む?」

「うん」

「じゃあ、持ってくるね」

「待って、私も行くよ」

先に立った尚に続いて桜も腰を上げて、2人は一緒に部屋を出た。

誰もいない家の中はしんとしていて、窓のない空間では、雨の音すらしない。

「音がないと、なんだか不安になるね」

「それはきっと、僕達がいつでも音楽に囲まれているからだ」

「うん」

幼いころから、音楽に囲まれていることは当たり前で、音の中で生きて来た桜にとって、静寂は苦手だった。

音楽じゃなくても、何か小鳥のさえずりや猫の鳴き声でもあればいい。

キッチンについた2人は、とりあえず冷蔵庫を開けた。

窓のある部屋に来ると再び、雨の音が聞こえてくる。

「オレンジジュースに豆乳、牛乳。あとはそこの棚には茶葉がある」

棚には、たくさんの種類の紅茶がある。

「ったく母さん、こんなに買い込んでいつ飲むんだか」

「尚のお母さん、昔から紅茶好きだよね」

「僕もそのせいで紅茶ばっかり飲んでたよ。今でも」

「ふふっ。じゃあ……オレンジジュースにしようかな」

桜は、さすがにその紅茶を飲む勇気がなかった。

「オッケー」

尚は2つコップを用意すると、どちらにもオレンジジュースを注ぐ。

そのジュースを注ぐ音はリズムを刻みながらコップに吸い込まれていく。

「尚もオレンジでいいの?」

「なんでもいいよ」

「ふうん」

尚は2つのコップを並べて、ジュースの高さが同じかどうかを調べている。

昔から、尚はこういう変なところに細かかった。