「それで、桜はなんて返事したの?」
「わたしが返事っていうか……もし尚を選ぶならいずれは外国に一緒に行かなきゃいけないでしょ。でも、尚が私の仕事のためにって、やっぱり1人でフランス戻るって」
「って、高倉くん今日本いるんだ」
「あ、うん。今月だけなんだけど。……あと、この前フランスに尚のコンサート聴きにいったんだけど、その時にたまたま隣になった人と日本でも会って、告白されたの。大学で音楽学教えてる人で」
「なるほど。ってことは、その人を選べば桜はピアノを教えつつ恋人もできるかもってことなんだ」
「うん……」
「桜が、ピアノの先生になりたくてなったことはよく知ってるし、亡くなったおばあさまとも約束したもんね」
「そう、たくさんの人にピアノを届けてって。私はピアノの先生だったおばあちゃんが好きで、それに憧れて実際に先生になって……」
「でも、そんなに迷ってるってことは、高倉くんの存在が桜の中で大きいってことで合ってる?」
「うん」
「ちなみにもう1人は?」
「いい人だなって思ってるよ。一緒にいると落ち着くし、ブラームスが好きだっていう共通点もあって」
「じゃあさ、その人と付き合ってみれば? 高倉くんもきっと告白して自分なりに答え出して前に進もうとしてる。もしその人と付き合って桜がやっぱり高倉くんの存在が大きくてそばにいたいと思うなら、桜の1番は高倉くんになった、それだけのことだよ。その時は、フランスでもどこでも高倉くんがいるところに行って気持ちを伝えないとね。その彼には悪いけど、私は桜に幸せになってほしい。もし途中で振る形になっても。もし、桜がその彼といて満たされるなら、そのままでいればいいし。高倉くんもきっとそれを望んでる。それに、おばあさまだって、なによりも桜の幸せを願ってると思うよ」