「正直びっくりしたよ。10憶なんて、普通じゃ考えられないし。でも、羽弥斗がよっぽど想っている人なんだって思ったから。何も聞かないで、ちゃんと10憶円渡したよ。勿論、返してもらおうなんて思っていない。羽弥斗に生前財産を渡しただけって、思っているから」

「・・・なんで・・・そんな大金、すんなり渡せるの? 信じられない・・・」


 ノエリはシレっと言った。


「ノエリちゃん。お金はね、愛なんだよ」

「愛? 」


「そう、金額が多ければ愛がたくさんあるわけじゃないけど。それだけの大金を動かせるのは、やっぱり羽弥斗のノエリちゃんへの想いが、大きいから動かせたんだよ。だから、ノエリちゃんはそれを素直に受け取ればいい。そしてもう、自由になればいいんだよ」


 自由に・・・なる・・・。

 自由になる事は全てを公表する事になる。

 そうしたら、きっとひまわりが・・・


 ノエリはギュッと唇を噛ん俯いた。



「あのねノエリちゃん。ひまわりを心配しているなら、無用だからね」

「・・・え? ・・・」


「我が家をなんだと思っているんだい? 代々守られている早杉家を、なめちゃだめだよ。玄関にいるSPは勿論、運転手だって家のセキュリティーだって万全。ひまわりにはいつも、学校の行き帰りはちゃんと護衛もつけているんだよ。狙われる心配はないから」

「・・・でも・・・」

「大丈夫だよ! ノエリちゃんの事だって、護るからさっ。二度と誰にも、ノエリちゃんの事を「殺人犯」だなんて言わせない。だから、ノエリちゃんは自分が幸せになる事を考えればいい。それが、信秀さんも望んでいる事なんだよ」


 父が・・・

 ノエリは小さい頃、信秀にこの駅に連れてきてもらった事を思いだした。

 まだ小さいノエリと一緒に江里菜もこの駅に来た。


(お父さんが運転している新幹線、カッコいいだろう? )

(うん、乗せてくれてありがとう)

(家族で乗れて嬉しいよ)


 新幹線から降りてくる運転手を見て、ノエリは満面の笑みを浮かべた。


(お父さん、あの人と一緒だね。カッコいい)


 
 ノエリは家にいない事が多い信秀だが、とても大好きで、いつも「お父さんはカッコいい運転手」と言っていた。