「いや……俺も、まだまだだ……ん?」

照れながら笑い返すタケチは、ドアにへばりつくように言葉を失う僕達に気づいた。
気づけば、宇都木さんは一言も発していないのでは。
そうっと横目で様子をうかがうと、口をぽかんと開けて、目はまん丸に見開かれている。

そりゃ、そうだ。
冷酷無比、冷徹非情、などの形容をされたこともある、我が高校を代表する番長が、おじさんと一緒に、いかにも楽しそうに百人一首をしているのだから。

「やあ……木村くん。げ、元気……そうだね?」

言わなくてもいいことまでつい言ってしまったのは、あまりのショックによるところだ。
タケチは首をかしげ、
「俺……あの時は、助かった。だが、何故、名前を?」

やっぱりな。
地味で目立たない僕は、所詮覚えられてもいないのだ。
僕は気を取り直して、自己紹介をすることにした。