まだ、知ることが出来ていないままなのに。
やっと、理解したいと思えたのに。
あぁ。まだ、思い出せないままなのに。
…まだ、皆に伝わっていないのに。
「 なんとか、言って、ください……っ、晴雷さん…、 」
苦しい中、最後に翔湊がその名前を呼んだ時。
晴雷は、ようやく顔を上げた。
「 ……澪。 」
澪。
その名前に、その場にいた全員が言葉を失った。
「 僕の名前は、晴雷じゃなくて、澪。…ゲホッ……晴雷、は…僕の、母さんが使ってた、偽名だよ。 」
すると澪は、小さく「 母さんも、こんな気持ちだったんだ。 」と笑う。
でも四人は、もうその言葉を理解出来るほど、頭が回る状態ではなかったらしい。
それでも澪は謝り続けた。
涙を流しながら、咳き込みながら、何度も何度も。
「 ッ…ケホッ。 」
「 あー、やべ。 」
泪を支えていた身体も、ついに床に倒れた。
そんな魅月を見て、泪は魅月の手を握る。
呼吸を整えながら、魅月は目だけを動かして泪を見た。
「 魅月、さん。…ッ、僕、魅月さんのこと、好きですよ。 」
その言葉に魅月は、「 今言うの、それ。 」と、小さな笑いながら涙を零した。
「 ごめん、泪。ごめん、ごめん。 」
苦しさで、言葉にならない感情は、" ごめん " にしか変えられなかった。
「 翔湊くん、翔湊くん…。 」
「 ゲホッ…。どうしたんですか、紗來さん。 」
ベッドにうつ伏せ状態で倒れてしまった紗來は、その隣に横たわる翔湊の名前を呼んだ。
そっと翔湊の頬に手を添えると、涙を流しながら何度も「 ありがとう 」、そして「 ごめんね 」と言う。