そして、その鬼のような会長が我らが軽音楽サークルにやってきたのは、つい30秒ほど前のことである。
軽音楽サークルとは、ご存知の通りギターやベースやドラムなどの楽器でバンドを組み、ロックやポップスなどの音楽を奏でている愉快なサークルである。その日僕たちサークルメンバーは、暇をもてあましクラブハウスの外の狭い、限られた空間で野球部の真似事などをしており、不運なことに向かい側の吹奏楽部の部室へ見学に来ていた会長の頭に、二年生のベーシスト二村くんの放った野球ボールが窓ガラスを突き破り直撃してしまったのである。


僕たちは決して忘れないだろう二村くんの一瞬にして青ざめる顔を・・・。


僕たちは蛇に睨まれたカエルのごとく動けなくなった二村くんを残し、部室内へ逃げた。
野球ボールを握りしめゆっくりと歩み寄る鬼。
その鬼だが、案外小柄であり短めのボブヘアーと本来可愛いであろう顔の大きな目のまわりの黒いアイラインが印象的で、歩く度に揺れるふくよかなバストに女性らしささえ感じる。
しかし、鬼は鬼だ。


鬼は二村くんの前に仁王立ちし、二村くんを見上げた。
「一度部室に入りましょう」
部室に向かう二村くんは手足が揃って出ており、かの国の兵隊か、一昔前前のロボットかのように滑稽だったが、僕たちも同時に逃げられないことを確信した。
いくらギターの練習をするふりをする僕も、同じ三年生でドラムをたたくふりをする湯川くんも、呼吸をすることも忘れるほどに恐怖を感じていた。