王子が黙ったので、私も黙った。

心臓がバクバクしている。

「王子も私も、働くべきなんだと思います」

自分が無意識に出た言葉がソレだった。

「カッチャンは真面目だからね」

まるで、あざ笑うかのように王子が言った。

「よく言われます。でも、毎日与えられた仕事をコツコツやるしかないんです」

「もし、働いた先に大きな不幸があったとしても?」

「そんなの、誰にもわからないじゃないですか」

王子を見た。

「将来のことなんて、誰にも予想できないでしょう? 嫌なことじゃなくて、ハッピーなことだっておこるかもしれない。将来のことで、怯えて生きるのはもう沢山です」

王子は目をそらした。

「目標をたてて頑張るのだって必要ですけど。何よりも、今できることをコツコツやるのだって大事だと思うんです」

「それは、カッチャンが賢いからだよ」

「王子は、腐ってるだけですよ。コツコツやってみて、それで駄目だったらまた考えればいいんじゃないですか」

「……」

「私、この会社に来て良かったと思ってます。ずっと、厨房で仕事してきたから。今まで経験してないことを経験できて。あと、何より色んな人と出会えるのが凄く楽しいんです」

「……」

「王子と出会えたのも、とても、幸せです」

「そうなの?」

「はい」

王子が、そんなにヘビーすぎる過去を持っているだなんて知らなった。

過去の痛みを共有することは出来ない。

ただ、自分が考えていることを、素直に話して。

ぶつけることしか出来なかった。