要さんが入院して早、一週間。

うちの会社は要さん一色になった。

性格はともかく、あの容姿だから要さんのファンだというオジサン達が多いのだ。

会社で倒れて入院したという話は瞬く間に社員の間に流れ。

「可哀想に」と同情する人。

「大丈夫なのか」と真剣に心配する人。

「誰? 要さんって」という人も実はチラホラ。

すっかり有名人となった要さん。

噂は次々と飛び交い、要さんファンのオジサン達がカンパしようと言い出したり。

実は要さんは社長のお気に入りだから、社長が入院費を全額出すと言っている…なんて噂まで流れたり…。

仕事をしながら、色んな噂を聴いて。「ハイハイ」と私は心の中で呟く。

仕事の量がそれとなく多くて。

同時に、そんな周りの中で仕事に集中出来るわけでもなく。

仕事が終わらないという事実にブツかって。

上(管理者)に許可を取って。

残業をすることにした。

「がんばろ」

自分に言い聞かせて。

腕まくりをする。

「お疲れ様―」と香川さんや皆が一人一人と帰っていく。

斜め前の席を見て。

一体、あの人はどんな病気なのかが気になった。

病気については、訊いていいのかわからず。何となく訊けずじまいだった。

そもそも、誰に訊けばいいのかわからなかった。

部長? いや、部下のプライバシーを喋ることはないだろうし。

香川さん? 口、かたいからなー。

(そうすると・・・)

「お疲れー。あれ、カッチャン残業?」

頭上から降ってきた声に「どうも」と頭を下げる。

スーツ姿の王子。

「俺、待ってようか?」

「ハイ!? 大丈夫ですよ。ご心配なく。待ってもらっても焦っちゃうんで」

「そっか…」

と、言って王子は要さんの席に「よいしょ」と言って座った。

何故、そこに座るんだと思ったけど。

良い機会だ、訊いてみよう。

「あの、王子…。王子にこんなこと訊くのは失礼かもしれないですけど」

「なーに? 年齢は37歳だよ」

フフっと王子が笑った。

「王子って、要さんが何の病気かご存知ですか?」

「うん。知ってるよ。要ちゃん、ガンなんだって」

「は?」