「お疲れさん」

お父さんのグラスにビールを注ぐ。

22時に閉店してそれから片付けや明日の仕込みをしていると。

夕飯は24時近くになってしまう。

店から家までは、歩いて15分ほどの距離なのだが。

「家で片付けるのが面倒臭いから」と言って。

うちの家族はいつも店でご飯を食べている。

「ゆづ、すまなかったなー。来たそうそう、疲れたろ?」

「大丈夫だよ。へっちゃら」

お父さんはあんまりご飯を食べない。

刺身とビールが夕飯代わりだ。

「奥さんいつ帰ってくるの?」

兄貴はご飯を大盛りにして。

一気に食べている。相当、お腹が空いていたらしい。

本来、この店はお父さん、お母さん。兄貴。そして、兄貴のお嫁さんの4人で営んでいる。

ただ、お嫁さんに赤ちゃんが授かって、当分の間。実家に帰っているという。

3人で回すのは、なんとかやっていけるみたいだけど。

流石にお盆の時期は忙しいから、手伝ってくれないかと言われたから。

私はわざわざ来てやったのだ。

兄貴の為じゃない。お父さんとお母さんの為だ。

「さぁー。当分は帰ってこないんじゃない」

「なんつー、言い方・・・」

自分の奥さんだというのに、興味ありませんというような言葉。

ほんっとに、よくもまぁ。こんな兄貴と結婚したもんだと思うよ。

「柚月こそ、よく帰ってきたな。今迄帰ってこなかったくせに」

「転職して心に余裕が出来たってことよ!」

ビールを飲み干すと。

「じゃあ、そろそろ恋愛にも余裕が出来たのか?」

兄貴の言葉に。

頭の中が、ピシッと鳴った。