湯の中で長い息を吐く健太郎を、思わず見つめる。

 俺もそれくらいのことはわかっていたが、本人も自覚していたとは。

「じゃあ直せよ、サボり癖」

「ムリムリ。どうせ俺は頑張ったって、兄貴みたいにはなれないんだ」

 すねた子供のような口調に、余計に腹が立った。

 俺が今の地位にいるのは、子供の頃から親父に認められたくて努力してきたから。

 何の努力もせず、自分が認められないのを他人のせいにするようなやつは、たとえ身内でも好きになれない。

「ああ、そうかい。これからも自由を謳歌してくれ。俺に関係のないところでな」

 浴槽から出ようと立ち上がると、健太郎にぱっと手をつかまれた。

 気持ち悪くて振りほどくと、健太郎は真剣な表情でこちらを見上げていた。

「そうはいかない。今のままじゃ、希樹ちゃんが可哀想だ」

 希樹の名前を出され、ゆっくりと浴槽の中に戻る。

「何が言いたい」

「何らかの事情で、羅良ちゃんの身代わりとなり、希樹ちゃんが兄貴の仮の妻になっている」

 ただの憶測の話だ。

 俺は冷静に聞くフリをする。