「ハル?どうしたの?」

「いや、何でもない。風呂入ってくる」


陽毬は常に俺のことを知ろうとしているためか、些細な俺の仕草や言葉でもちゃんと覚えていることがある。


例えばこの前の朝……梅雨の季節になって、少し鼻風邪を引いた俺がティッシュで鼻を噛んだ時。

ボソッと独り言同然で「鼻が痛い」と言ったら、その日部活から帰った時には柔らかい低反発のティッシュに変わっていた。


練習中に爪を割ってしまった時も、家に帰ったら何故か陽毬にすぐにバレて絆創膏を巻かれたのも記憶に新しい。



「……俺、してもらってばっかだな」



シャワーを浴びながら、ふとそんなことを思った。


俺って、陽毬のこと何も知らない。


陽毬の好きなものってなんだ?

嫌いなものは?


……最低じゃね?俺。


陽毬を好きじゃなくても、仮にも同居人で婚約者。

ずっと続いていく関係なんだし、俺からも歩み寄らなければいけないはずだ。


お互いそこから始めようって話だったじゃねぇか。

陽毬にばかり負担かけてどうすんだ、俺。



「はぁ…」


今更そんなことに気づくとか…。