「一個ちょうだい!」
「ヤダね」
サンドウィッチを勝手に取ろうとする俊太の手を避ければ、「ケチ」という言葉が飛んでくる。
誰がケチだ。
自分の弁当あるだろ。
「あー!もう食べてる!」
俊太と飯を食っていると、沙織が自分の弁当を持って俺たちのクラスにやって来た。
珍しいな。
いつも女友達と食ってるのに。
「なんだよ、沙織。友達と喧嘩でもしたのかー?」
「はぁ!?違うから!」
どうやら、友達が委員会の集まりでいない為こっちに来たらしい。
なんでもいいけど、静かにしてくんねぇかな。
周りから見られてんの気付いてねぇだろ、お前ら。
「うわ、晴翔のお弁当めちゃ美味しそう!しかもなんかオシャレ!」
「だろ〜?晴翔のやつ、いつもこんな美味そうな弁当食ってんだぜ」
いや、なんで俊太が得意げに話してんだ。
「すごいね!やっぱり、おばさんってば料理上手!」
沙織はこの弁当を俺の母親が作ったと思ってる。
事情を話してないから、そう思うのも当たり前だ。
別に隠してるわけじゃねぇから、言ってもいいんだけど。
「あー、これは…」
「違うんだなー、これが。晴翔の弁当は婚約者の陽毬ちゃんが作ってんだぜ!」
おいコラ。
だからなんでお前が言うんだよ!
「俊太、お前なぁ…」
「え?俺なんかマズいこと言った?」
別にマズくはねぇけど、そういうことじゃねぇよ。
ポカンとしてる俊太の頭を軽く叩いていると、ふと沙織が一言も発していないことに気づいた。
「…沙織?」
名前を呼ぶと、ハッと我に返った沙織がようやく口を開く。
「こ、婚約者といつ会ったの?」
「あー、入学式ん時に。ほら、俺部活の練習遅れて行ったろ。その時に初めて会ったんだよ」
「そう、なんだ…」
なんだ?
沙織の様子が少しおかしくなった気がする。
いつもなら俺をからかってくるんだけどな。
「あ、あたし…やっぱり教室で食べるっ」
「は?おい、沙織?」
俺の呼び止める声にも反応せず、沙織は弁当箱を持って教室を出て行ってしまった。
え、なに。
「あいつ、急にどうしたんだ?」
「晴翔って鈍感だよなぁ〜。まぁ、俺は晴翔の気持ちを応援するから」
は?
全然意味が分からねぇんだけど。
「どういう意味だよ?」
「そのうち分かるって」
なんか俊太に分かって俺には分からねぇの、すげぇムカつくんだけど。