そろそろ我慢の限界が来て、私はバンッと机を思い切り叩いて立ち上がった。


その音は教室中に響いて、クラスメイト達が何事かとこちらを振り向く。


「陽毬ちゃん?」


私の異変にやっと気づいたのか、羽柴くんが戸惑いながら声をかけてくるけれど、その声には反応してあげない。


奈緒の隣に席を移動した私は、必ず鞄に入れて持ち歩いている、あるスポーツ雑誌を取り出して目的のページを開く。



「この人が私の婚約者です」


そう言って机の上に雑誌を置く。


「え…っ」


そこに載っている人物を見た彼は、目を見開いたまま動かなくなった。


そりゃそうだ。

その人物が自分よりも遥かに整った容姿をしていて、雑誌に取り上げられるほどの実力を持ったアスリートだったんだから。



「私は彼と生まれた時から婚約を結んでるの。私は彼しか好きにならないし、なりたくもない。

私に好意を持ってくれるのは素直に嬉しい。ありがとう」


人から好かれることは嬉しい。

私の何かに惹かれてくれたということだから。

それはとても嬉しいこと。

でも…。


「でも、これ以上は私に近づかないでほしい。これ以上近づかれると、羽柴くんを嫌いになってしまいそうだから」


友達としてなら、仲良くなれる。

真緒と長岡くんの幼なじみなんだから、根は良い人だと思うんだ。