「早く、入って」
「おじゃまします…」
あれから約30分、水族館から柚希の家まで走り続けた。
お母さんを連れてくるなって柚希から言われて、私は実莉と二人で走った。
1時間前、速報ニュースで……双子に能力が感染するウイルスが放出され、すでに隣町にいる双子の子達は能力が現れたのだという。
それを非常に恐ろしく感じて、鳥肌が立った。
私と実莉が施設に連れていかれて、研究される。
絶対に嫌だ……。
「あんた達が自分の家に帰ったら、自爆してるようなもんよ。近所の住民は長田家に双子がいるって知ってるんだから」
「ねぇ…柚希ちゃん。一体なにがあったの…?」
「口で説明するのは難しいから、このニュースを観な」
柚希は自分のスマホを実莉に渡すと、実莉は床に正座してそれを見始めた。
「今のところ、ここが一番安全かしらね。私、一人っ子だし疑われないわよ」
柚希は一人っ子で、両親は離婚している。
そのままお父さんに引き取られて、二人暮らししているそう。
お父さんの帰りは遅いから、朝や昼間はずっと家で1人らしい。
「まあ、絶対に研究員がこの家を尋ねないとは限らないけどね。あ、そうだ…ちょっと来て」
柚希に手招きされたキッチンに行くと、ある用紙を見せられた。
「この文字、読み上げな」
「う、うん…。えっと……、私の心は痛みに苦しんでいる。助けも借りず孤独で暮らしていくのには、とても心と体に悪かった。今思えば、あのとき頼れば良かったんだ。今、ひどく後悔している。だから、私は罪を償う…」
なんの文だろう…?
全て読み上げると、柚希はその用紙を裏返して、自分の背中に隠した。
「今の言葉、もう一度言いな」
「能力がついているかの確認なの…?」
「そうよ。私に感染するのは有り得ないけど、もしあんたに感染していたらこれ以上身を隠すことになるからね」
「わかった……。」
今の文章は……。
確か……。
「…………私の心は痛みに苦しんでいる。助けも借りずひとりで暮らしていくのには、とても心と体に悪かった。今思えば、あのとき頼れば良かったんだ。今、ひどく後悔している。だから、私は罪を償う。」
脳内にさっきの用紙の文字が、写真のように鮮明に浮かびあがってきた。
「…………感染してる可能性があるわね」
「頭の中でさっきの紙が写真みたいに浮かび上がってきて…、文字がはっきりと見えたの」
「……なるほど?だとしたら、あんたは『視覚完全記憶能力』の方ね。あとで実莉にも試してみなきゃ」
「ねえ、柚希ちゃん…」
背後から声がして振り返ると、スマホを両手に持ち、とても不安そうな表情を浮かべた実莉が立っていた。
「これ……本当のことなの?嘘じゃなくて?」
「信じたくないだろうけど、本当のことよ。実莉、この文字を読み上げ……」
「なんで……なんでもっと早く教えてくれなかったの!?最近、真莉ちゃんの様子がおかしかったのはこれのせいなの!?」
「み、実莉?あの…」
「真莉ちゃんは知ってたんでしょ…?どうして私だけ教えられずにいたの…。」
「実莉…」
ぽろっと溢れた実莉の涙に、なにも言えなくなる。
「お母さんとだって会えなくなるし、もうお家に戻ることだって出来なくなるんだよ!?真莉ちゃんはそれでもいいの!?」
「実莉、少し落ち着きなさい。真莉は、実莉を不安にさせたくなくて教えなかったのよ。実莉のことを思っての行動だったの」
「……っ…家に帰る」
そう言って歩き出した実莉の手を掴んで引き留める。
「だめっ!この辺りにも研究員の人が来て、私達双子を探しているんだよ!実莉が今外に出たら、すぐに見つかって連れていかれちゃうよ…」
「…私の勝手にさせてよ」
パシッ……
手のひらの力が抜けて、実莉の腕がするりと交わされる。
実莉はそのまま、柚希の家を出ていった。