「はぁ…っ……はぁっ……梨乃くん!!」



家を出て、外灯が少ない夜道を走る。



梨乃くんは、きっとこの町のどこかにいるはず。



石階段をかけ降りると、道の奥に音子ちゃんと友達が一緒にいるのが見えた。




「音子ちゃん!!」




「え?あれ…真莉!?一体どうしたの!?」



走ったせいで髪の毛もボサボサだし、涙でぼろぼろだし、いつもは名前を呼び捨てにするのにとか…色々あるよね。




「音子ちゃん……私、全部思い出したの」



「思い出したって…、何を?」



「特別感染ウイルスのこと!!研究施設のこととか、海斗くんの双子の弟、彼方くんのことも全部!私達は幼なじみじゃなくて、中学2年生に研究施設で会った友達なの!」



「うーん…?いきなりどうしたの……?なにか面白いドラマでもみた?」




「本当なんだってば!!思い出してよ音子ちゃん!!」



音子ちゃんの肩を掴んで、ふらふらと揺らす。



「ちょっと…、愛理、ごめん。真莉が心配だから送ってくね」



「大丈夫だよ~、それじゃあまた学校でね」



音子ちゃんは友達に手を振り、私を再度見つめた。




「真莉、一体どうしたの?ウイルスってなんのこと?」



「…やっぱり、覚えてないんだ」



音子ちゃんも覚えていない。



いままでの皆からの対応や話し方を思い出すと、私だけじゃなくて、皆がこの記憶を無くして入るんだと思う。



だったら…、梨乃くんも?




梨乃くんもこの記憶を無くしているの…?




とにかく、探さなきゃ。




「音子ちゃん、またあとで!」



「えっ?え?ちょっと…、どこ行くの!?」




「大好きな人のところ!!」




「へっ!?」



私は走ってその場を後にした。




自力で梨乃くんを探さないと…、なにも手掛かりとかないし…。




膝に手をついて、ふぅ…と息をつく。



運動が苦手な私は、走るのもそんなに得意じゃない。



体力は奪われていくし…、こういうときに運動神経が良い実莉とかがいてくれたらなぁ…。



「真莉ちゃーん!!」



あれ、実莉がいてくれたらなぁとか思ってたせいかな。



階段を4段飛ばしで降りてくる実莉の姿が見える…。




ん…?今……。




実莉は私のことを真莉ちゃんって呼んだ?




「真莉ちゃん!ちょっと待って!」




実莉は息を切らしながら、私の目の前まで走って来た。




「実莉…もしかして」




私の言葉に、実莉は笑顔で頷いた。




「私も思い出したよ。全部」



「…っ」




「それでね…今から福井さんを探しにいくんでしょ?私にも手伝わせてよ!」




「あ、ご…ごめんね」



「……だけど、その必要は無さそうだね」




「え?」




どういうことだろう…?




「私、海斗くんに会ってくる!そこで全部話す!」




「えぇ!?で、でも!さっき音子ちゃんに会って全部話したけど…、なにも思い出してくれなかったよ!」




「その時はその時で頭を殴れば大丈夫でしょー!いってきます!」




「い、いってらっしゃい……」



元気よく海斗くんの家の方向に走って実莉に、力なく手を振る。




実莉も思い出してくれたのなら、心強い。




梨乃くん…今どこにいる?



今夜、必ず会って話をしたいです。





神様、どうか私に梨乃くんのいる場所を教えてください。




そして、私は走り出した。