実莉と廊下を小走りして音子ちゃん達のいる個人部屋へと向かう。


「どうしてサイレンなんかが鳴ってるの…?なにか緊急事態…?」


「わからないけど…、嫌な予感がするよ」


実莉の嫌な予感といえば当たる確率はいつも低いけど、こういうときに限って当たったりするんだよね…。


個人部屋に着くと、ドアをノックして開ける。



ベッドの上で身を寄せ合い、那奈ちゃんが音子ちゃんの背中を擦っていた。



那奈ちゃんが私達に気付き、安心したような表情を浮かべた。


「二人とも、来てくれてありがとう。音子は今、気を失っているんだ」



「え…」



ベッドに近づくと、確かに、那奈ちゃんが音子ちゃんの体を支えているだけで、自分では保っていなかった。


ぐったりとした様子で、気を失っている。



「このサイレンがなんなのかはわからない……、けど…予想は出来る」



「どんな予想…?」




私が聞くと、那奈ちゃんは表情を暗くして…口を開いた。



「…ある四人の双子が、私達の作っていた脱出計画を強奪しようとしていてな。


その四人の双子は彼方と海斗に恨みがあったらしい、どんな恨みかは知らんが……そのせいで脱出計画を立てるのは一時中断。


そして、四人の双子がそれを近いうちに実行すると言ったそうだ。あいつらが通って脱出しようとした場所には、特別なセンサーが張ってある。



通ろうとすれば、確実にセンサーが反応して監視カメラが起動……、そして大きなサイレンが鳴り響き、簡単に見つかってしまうってわけだ」




「てことは…、今鳴っているこのサイレンの原因って……」



「あぁ、あいつらのせいかもな」




「その四人の双子はどうなっちゃうの…?」



「私にもわからないが、解剖して臓器を売られるか……、個人部屋で拘束状態…ってことかもな」



「そんな……」





「とりあえず、今分かることは私達にはどうすることも出来ないってことだ。音子の目が覚めるのはいつかわからないし…」



「海斗くんと彼方くん、大丈夫なのかな…?その四人の双子に恨みを持たれていたんだったら…なにかされるんじゃ…?」



「あいつら、元々空手習ってたらしいから大丈夫だけど…、刃物とか拳銃とかそういうものを武器として使われたら、確実に終わりだな」



「真莉ちゃん、福井さんは平気?」



「ふ、くい……くん…?」



そうだった……ずっと不安だった。




福井くんに会いたい、助けてくれたお礼をちゃんと言いたい。



「福井くん……どこにいるんだろう…あれからずっと会ってないんだけど…。」



「その福井ってやつは、下の名前が『梨乃』か?」



那奈ちゃんにそう聞かれて、私は記憶を掘り返す。



『どういたしまして、僕の名前は福井梨乃。またね、真莉』




「福井梨乃くん…そう、梨乃くんだった」



迷子になった私に、研究室まで送ってくれた時のことを思い出した。



確か……そう言っていた。




「だとしたら……、特別研究材料の一員か?」



「特別研究材料…?那奈ちゃん、それって福井さんのことなの?」



実莉がベッドに座り、那奈ちゃんにそう聞いた。



「あぁ、そうだ。ただの噂だと思っていたがな……。



その『福井梨乃』ってやつには双子の姉がいるはずだ。


その姉の名前は『福井由紀』。福井家の双子は、特別研究材料としてここに集められたんだ。



なんでも、特別感染ウイルスが完成する前の、樹液で作った薬品を飲む…実験体だったらしい」



「実験体…!?」




「そうだ。恐ろしい話だよな、まだ小学生だった12歳の双子を実験体にするなんて。


幸い命に別状はなかったようだが、世界で一番に特殊能力が身に付いた双子だったから、特別研究材料として扱ってるんじゃないか?」




「那奈ちゃんすごいね…、そこまで知ってるなんて」



「顔が広い双子のやつとも結構話すからな。噂とか、情報とか色々入ってくるんだ」



「でも、それだとしたら…普通の双子よりも先に解剖されてるんじゃない…?」





実莉が問い掛けると、那奈ちゃんは考え込むような仕草を見せた。



「そう……そこなんだ、おかしいのは。どうして普通の双子が、先に解剖されてしまうかなんだよ」



「私もある噂で聞いたんだけど…、名札に書かれてあるNo.が遅い人ほど、解剖されやすいんだって…」



ふと、私は自分の名札を見る。



No.56と書かれてあるけど…No.がどれだけあるかがわからないから、遅いのか早いのかわからない。



「あ、いつの間にかサイレンが鳴り止んでるな。私はここにいる。真莉と実莉は自分の部屋に戻っておけ」



「でも、音子ちゃんが……」




「大丈夫。こいつ、体つえーからさ。すぐ目を覚まして元気になるよ」



私達は、那奈ちゃんの言葉に渋々納得し、個人部屋に戻った。