「…ところでさ、もうそろそろ話してもいいんじゃないか?細かく決まってないところは皆で話し合えばいいし」



海斗くんがご飯を食べ終えると、口を開いた。




「んー…そうだね。真莉ちゃんも、そろそろ知っておかなくちゃ」



頭の上にはてなマークが浮かぶ中、実莉が私の肩をトントンと叩いた。



「真莉ちゃん、この施設に地図があるの…知ってる?」



「地図…?この施設に地図なんかあるの?」



初耳だし、たいして興味なかった。
だけど…もし地図があったとして、それは何に使うのか?



「実はね、真莉ちゃん以外の今囚われている双子の皆で脱出計画を立てているの。正確に言えば、立てていた、だけどね」



「脱出、計画?」



すると、テーブルに突っ伏していた那奈ちゃんが顔を上げて、ポケットから紙を取り出した。



「これがこの施設の地図だ。出入口や、非常口…人が入れそうなところはメモしてある」



テーブルに広げた地図を見ると、数えきれないほどの出入口と部屋がこの施設にあることがわかった。



「この出入口は、俺達が施設に初めて来た時に行ったところだ。頑丈な南京錠に、鎖が巻いてあって、誰も出入り出来ないんだとよ」



「僕が昨日、朝早くに裏庭に行って確認してきた。出入口の扉の前には特に人はいないが、食材の買い出し用に、裏口から隣町へ向かう人がいるらしい。




つまり、出入口付近にいても人はいないから見つかる確率は低いが、裏口から出てきた人に見つかる確率は高いということだ。




行き先はひとつしかないため、必ず出入口前を通るからな」




彼方くんが地図を指差しながら説明してくれた。



「彼方、裏庭から外に出れそうにないのか?」




「不可能だ。通常の柵の上に、巨大な網が張ってあり…登って外へ出ようとすれば、落ちた時に骨折程度では済まない怪我になる」



「んじゃ、裏庭はほとんど除外だな」





「ちょ、ちょっと待って……。脱出計画を立てて、それを実行するってこと?」



私がそう聞くと、那奈ちゃんは地図から視線を外して私を見た。



「もちろん。不安か?」



「……うん。研究員や施設の人に見つかって……、もし、殺されちゃったら……」



「でも、どっちみちここにずっと留まっていればいつかは解剖されて、死ぬ羽目になるんだぜ?」




「留まって死ぬより、生きる希望があるならそれにすがり付こうよ。やってみなきゃ、本当に死ぬとは限らないでしょ?」



音子ちゃんと海斗くんにそう言われて、私は少し考え込む。



確かに、死にたくない。



解剖なんてされたくないけど……。



でも、施設から脱出出来たとしても…お母さんのところへ戻るなんて出来ない。




だったら、私の帰る場所がないんだ。



児童養護施設に行って、里親に引き取られるってことになるのかな。



よく聞く話、里親に引き取られたらその里親に暴力を振るわれ、いいように扱われると。




ここにいるのも怖い、脱出するのも怖い。




一体、どうすればいいんだろう。



「真莉ちゃん、大丈夫?ぼーっとしてるけど」




実莉の姿が視界にひょこっと入ってきた。



「あ、うん…平気。ごめんね」



「とりあえず、脱出計画をしてるっていう報告をしたかっただけだ。あんまり深く考えるなよ、いつ実行するかはまだ決まってないから」




「わかった…。あ…」




「ん?どうした?」




『福井くん、どこにいるか知ってる?』




そう聞きたいけど、喉になにかがつまって声が出ない。




何も言わない私の顔を心配そうに覗き込む海斗くん。



「…?言いたいことがあるなら言えよ?」




「やっぱり、大丈夫……。ごめんね」





結局、顔の前で手を振って誤魔化した。