ガクッと膝が曲がり、その場に座り込む。
急に走り出したはいいけど、ここ…どこ?
裏庭…と言った方がいいのだろうか。
施設裏側の、小屋の扉の前で座り込んでいる私は、周りをそろそろと見回す。
……つらかった。
初めて、お母さんに裏切り者……だなんて言われた。
自分でもなかなか実感がない。
でも……、あのお母さんの表情が脳裏にこびりついて離れない。
なにもかもを記憶してしまう、『視覚完全記憶能力』のせいだ。
そのせいで、全てを記憶してしまっている。
嫌だ…。
覚えたくないものまで、全て脳裏に焼き付ける。
最悪にも程があるだろう。
手で顔を覆い、身を縮ませる。
全部忘れたい、忘れてしまいたい。
柚希のお父さんのことや、お母さんのこと。
お母さんが私と実莉を捨てたこと。
私にナイフを向けたこと。
裏切り者と、言われたこと。
お母さんが好きだった。けど……
もう信じられない。
実莉だって、言い返してくれたのに…。
私のことを思って言ってくれたんだよね……。
あとでお礼言わなきゃ……。
お母さんのこと、全部話さなきゃ。
愛してくれていたのには、きっと間違いないんだよって。
だけど、自分の幸せを取ってしまっただけだって。
サラサラと髪の毛が腕に落ちてくる。
いつもくしでといていたのに、今はボサボサだ。
「きっと、私もこんな風に……」
「真莉ちゃんー!」
「……実莉?」
驚いて顔を上げると、実莉が私に向かって飛んで来た。
ドスッ
「ヴッ」
「…真莉ちゃん!探したよ!!って……ああごめん!!」
飛んで来た実莉に押し潰され、地面に倒れ込んだ。
「いてて……、ごめんね…急に走り出しちゃって…」
「そんなの気にしなくていいんだよ!…傷ついたでしょ?お母さんにあんなこと言われて…」
「まあ、うん……。迷惑かけてごめん」
「ううん、迷惑なんてかけてないよ。私、あのあとお母さんが許せなくて…一発殴ってやったんだよ!」
「え……ええっ!?」
「いくらお母さんでも、真莉ちゃんのことを悪く言う人は許さないもん!!そしたらね、お母さん倒れちゃって、福井くん…?に止められたの」
「そ、そんな…実莉にそんなことさせて…」
「私がしたかったからしたの!
……福井くんね、怒ってたみたいだよ。お母さんが真莉ちゃんに裏切り者って言った後から」
「え、そうなの?」
「うん!お母さんに言ってた。
『自分から助けなかったくせに、自らが危険な状況に陥ると、捨てた子供に助けを求める。情けない人ですね』って。
『あの子は裏切り者なんかじゃないです。自分がされて嫌なことは決して人にはしない、いい子ですから。性格もお父さんに似たんですね』って。
お父さんのこと知っているのかな…?」
「知らないはずだけど……。ほら、お父さんは3年前に病気で亡くなったでしょ?」
「うーん……お父さんはなんの病気で死んじゃったんだろ…」
ぐうぅ~
同時に私と実莉のお腹が空腹を訴え始めた。
二人で顔をあわせて、ふふって笑って。
手を繋いで、施設の中に戻っていった。