指定された部屋に行くと、ドアを開けて中に入った。
白いベッドが2つ、窓際に向かい合うように並んでいる。
そして、ひとつのベッドに実莉が眠っているのに気がついた。
「実莉!!大丈夫!?」
慌てて駆け寄ると、隣のテーブルに薬が置いてあり、実莉の額には冷却シートが貼られていた。
安堵したのもつかの間、薬が本当に風邪薬なのかを疑ってしまう。
ここは研究員がいるところ。
なら、薬が変なものっていう可能性も……。
だけど、私に薬を見分けることも出来るはずがなく。
そっとテーブルに戻すと、袋の中の服を取り出した。
白い長袖のワンピース。
着ていた服を脱ぎ、ワンピースを羽織った。
サイズが少し大きいけど、目立つこともなかった。
さっき手渡された名札をワンピースの胸ポケットにつける。
名札には、こう書かれていた。
【長田真莉(女・14)[1]No.56】
ここまで情報がわかっているなんて……。
少し鳥肌が立った。
ちらっと実莉を横目で見る。
実莉にも服を着させた方がいいかな……?
テーブルの横に置かれている袋から、私と同じ白いワンピースを取り出し、実莉に着させた。
すやすやと、気持ち良さそうに眠っている実莉を見ていると、もやもやと気持ちが沸き上がってくる。
お母さんは、私達を研究員に売った____。
自分の幸せのために、自分の娘二人を手放した。
今頃、私達がいなくなって……大金も支払われて、何に使おうかとか、ワクワクしてるんだろうな。
沸々と怒りが込み上げてくる。
許せない。
あんなの、母親じゃない。
大金と再婚の理由で、私達は売られたのだ。
実莉に、どう説明したらいいか……。
実莉は、お母さんのことが大好きだったから……そんなことを知ったら…。
頭を悩ませていると、コンコンッと部屋のドアがノックされた。
研究員……?
私は実莉の前に立ち、ドアの方を睨むと「どうぞ」と声をかけた。
ガラガラ…
「よお。ん?なに、怖い顔してんだ」
「なんだ、海斗くんか……」
ドアを開けて中に入ってきたのは海斗くんだった。
さっき着ていた服とは違い、上下白色の服を着ていて、名札もつけられていた。
「やっぱり、女と男で服が違うんだな。統一すりゃあいいものを……ん、こいつ…双子の片方か?」
私に近づいてきた海斗くんは、ベッドで寝息を立てている実莉を見て目を見開いた。
「瓜二つだな。お前のドッペルゲンガーみてぇ」
「や、やめてよ。海斗くんだって…彼方くんと瓜二つだったじゃん」
「そりゃあ一卵性だからな。ん?お前も一卵性か」
私の名札を見て、海斗くんは言った。
「え、どこに書いてあるの?」
「ここ。数字の1って書いてあるだろ?さっき他のやつとすれ違った時に2とか1とか書いてあったから、一卵性か二卵性かってことだと思う」
海斗くんの名札に視線を移すと、こう書かれていた。
【桧山海斗(男・14) [1] No.47】
「桧山海斗っていうんだ…?」
「カッコいいだろ?海斗って名前、父さんがつけてくれたんだ」
「あ、同じ。私もお父さんにつけてもらった」
「へえ。可愛い名前だな」
「そうかな?ありがとう」
海斗くんと同い年だったのか…。
この先不安でしかないけど、海斗くんとは気軽に話せそう…。
ピーンポーンパーンポーン
『これから、初期の能力判定を行います。各自名札に書かれているNo.を呼ばれなかった者は、個人の部屋に戻って下さい。呼ばれた者は、研究室にお越し下さい。繰り返します___』
流れた放送に、私の体は震えだした。
研究……
解剖やら最悪なものを想像してしまう。
自然と震え出す右手を左手で押さえる。
『No.は、1・24・56・98・123・150・206です。このNo.の者は、研究室にお越し下さい。繰り返しますNo.は___』
「やだ……」
「お前、まさか…」
私のNo.は、56。
放送で呼ばれてしまった。
「…悪い。俺もさっき能力判定に行ってきたんだ。すぐに終わって結果を知らされただけだし不安がらなくていいぞ」
「そう……なの?」
「あぁ。行かなかったら行かなかったでなんか言われそうだし、行ってこい」
「行きたくない……それに、実莉は寝てるのに…」
「向こうのやつは実莉が熱出して寝込んでること知ってんだろ?もしここに研究員がきて何か言われたとしても、俺がここにいるし、事情説明しとくから安心しろ」
「ありがとう、海斗くん…」
「ん」
行くな、怖い…と叫び出す体の震えを必死に押さえながら、重い足を動かした。