施設内に入って、私は言葉を失った。
明らかに、広すぎるのだ。
入ってすぐに開けているスペースがあって、既に連れてこられていた双子の皆がいても、全然埋まらないくらい。
「皆さん、ここに並んで下さい。順番はなんでもいいので、お早めに」
研究員の人と思われる、白衣を着た女性が手を挙げながら言った。
私はそろそろと海斗くんの後ろに並ぶ。
手錠はまだ外されていない。
いつ、外されるのだろうか……。
それとも、外されないのかな……。
ぎゅっと左手で右手を押さえると、順番が来た。
「名前は?」
「えっ…と……」
すぐに名前を言えばいいものの、喉になにかがつっかえて声が出ない。
早く、言わなきゃ。
「なが………りです…」
「悪いな、聞こえなかった。もう一度頼めるか?」
研究員の人にそう言われ、頬に汗がたれるのがわかった。
声が小さかった……。
トントン
………?
後ろから背中をつつかれて、振り向こうとすると後ろにいる誰かにそれを止められた。
でも、女の子の声で……。
「大丈夫だよ。ゆっくりゆっくり」
私は、こくっと頷くと研究員の人に向き直った。
「……長田真莉です…」
「長田…長田……あった。この名札を持っていけ」
手渡された名札を落としそうになり、慌ててキャッチする。
列から外れると、女性研究員の人に手錠を外された。
そして、袋に入ったなにかを手渡される。
なにかを聞く前に、後ろにいた子が来たため、私は海斗くんのあとについていった。
「よっ、真莉」
「ど、どうも…」
海斗くんも同様、袋を持っていた。
一体、なにが入っているんだろう…?
「袋の中に入ってる服に着替えろだってさ。元々着てる服は個人の部屋に置いておくようにって」
「えっ?あ…そうなんだ」
「んじゃ、またな」
「ま、待って」
私が引き留めると、海斗くんは私を振り返ってくれた。
「……ありがとう、あの時止めてくれて。あのまま止めてくれなかったら…今頃意識を失っていたかもしれない」
「本当にな。手錠を外したい気持ちもわかってたけど、実の弟があんなになっちゃあ、いくら他人でも止めなきゃな」
「本当にありがとうっ」
ぺこっと頭を下げてそう言うと、海斗くんは優しい笑みを浮かべて、「どういたしまして」って微笑んだ。