ガタンッ
「……ん…」
何かの物音で目を覚ました私は、ゆっくりと目を開けた。
私は、固い椅子の上で座っていて、目の前には何人もの女の子や男の子が眠っていたり、座っていたり…泣いていたり……。
そして、隣で実莉が眠っていることに気がついた。
肩を揺すって起こそうとすると、自分の両腕に手錠がかけられていることがわかった。
まさか……もう施設についたの…。
カーテンの隙間からこっそりと外をみると、どこかへ移動しているようだった。
つまりは、車の中。
「真莉…ちゃ……」
「え……実莉…?」
うっすらと目を開けて、私を見つめる実莉。
「真莉ちゃん……ここ、どこ?」
「多分…車の中。施設に移動しているんだよ…きっと」
「そ……んな……うっ…」
実莉が顔を歪めて、小さくうずくまった。
「実莉…?どうしたの?」
「頭が…痛いの……」
「嘘…。熱…?」
また、発熱だ。
顔は真っ赤だし、息も少し乱れている。
「実莉、膝に頭乗せていいよ。寝てなよ」
「真莉ちゃん……ありがとう」
実莉は私の膝に頭を乗せると、スーッと寝に入った。
「ねえ…」
「あっ、はい」
急に隣から話しかけられ、驚いてみると…可愛い女の子が座っていた。
「急にごめんね。その子…大丈夫なの?」
「実莉……あ、私の妹は体が弱くて……。多分…熱出してるんだと思う…」
「そっか……。これ、良かったら使って」
女の子はポケットから取りにくそうに、お絞りを出すと、私に渡してくれた。
「あ、ありがとうございます」
「どういたしまして。あとでまた話そうね」
女の子はそう言うと、背もたれに身を任せて眠り始めた。
お絞りを袋から出して、触れてみるとひんやり冷たかった。
私の体温で温かくならないよう、実莉の額にそっと乗せる。
実莉が少しだけ微笑んだように見えた。
私は実莉から視線を外すと、自分の腕につけられている手錠を見る。
どうにかして、逃げないと…。
ガチャガチャと言う音を鳴らして、手錠の鍵穴をいじる。
だけど、とても頑丈で手錠を外すことが出来なかった。
早くしないと……施設についちゃう。
その前に、なんとか手錠を外して…実莉を連れて逃げよう。
だけど、そんな私の考えは呆気なく散ることになる。
「手錠外すの、やめといた方がいいぜ」
「え……」
目の前の椅子に座っている同い年くらいの男の子。
キリッとした目を私に向けて、絶対にするなと言わんばかりの表情をしていた。
「俺の弟が手錠を外そうとして、上手く鍵穴を回転させたんだ。その瞬間に電流が流れ始めてこの様だよ」
「っ!」
男の子の隣で横たわる、瓜二つの顔立ちをしたもう1人の男の子。
手錠は床に転がっていて、男の子はぐったりとした様子で気絶しているみたいだった。
「そ、そんな……」
「俺は海斗、弟は彼方だ。彼方みたいになりたくなきゃ、手錠を外すのは諦めろ」
「……っ…」
海斗くんの言葉を聞いて、私は肩を落とした。
「お前は?」
「え…?」
「名前。なんていうの?」
「長田…真莉です」
素直に名前を言うと、海斗くんはさっきとは裏腹に優しい表情を浮かべて、「よろしく」とだけ言った。
ガタンッ
また大きな音が鳴った後、キキーッとブレーキのような音がした。
「……ついたみたいだな」
緊張と恐怖がとんでもなく入り交じり、カタカタと足が震える。
バンッ!
「施設についた。起きてる人、全員降りて下さい。」
黒いコートを着た男の人数人が、私や他の双子の手錠を掴んだ。
「…っ…あ、あの」
「ん?どうした」
「私の妹が……熱を出してて…っ」
「…そうか、わかった。治療をして寝かせておくから安心しろ。君は中に入って」
思ったよりも優しい声で、少し安堵する。
だけど、そう簡単には恐怖は消えなかった。
施設に入る前、扉にとても頑丈そうな鍵穴があった。
私は、もう前から悟っていた。
二度と、元の世界には戻れないんだと。