私はそのあと、実莉のことを追いかけることが出来なくて…、
柚希が用意してくれた敷き布団の中でうずくまって、不安に押し潰されそうな気持ちを必死に押さえた。
柚希は私の代わりに、実莉のことを追いかけてくれている。
柚希の家で1人でいたら…ここにも研究員が来て、私が連れていかれるんじゃないかという不安に襲われた。
敷き布団から顔をそっと出して、近くの本棚のタイトルを左から見つめる。
『ありがとうの意味・壊れる愛・切ない結末とは・毎日のお弁当本』
スッと目を閉じてみると、脳内にさっき見た本棚の記憶が写真のように鮮明に浮かびあがってきた。
タイトルも全て思い出せる。
本当に、感染してしまったんだ……。
嫌だよぉ……施設に連れていかれて、研究されるなんて。
そうなるくらいなら、このまま死んだ方が…。
そこまで考えて、私は首を横に振った。
死ぬなんて、怖すぎて出来ない。
仰向けの状態になって、天井を見つめる。
なんで、こんなことになっちゃったんだろう。
どうして双子だけに感染する細菌が研究されたの…?
どうして………、私は双子なの?
ぽろっと溢れた涙に、私は右手でそれを拭った。
外はあっという間に暗くなり、綺麗な月も出始めた。
他の双子の子達はもう、捕まっちゃったのかな。
施設に連れていかれて、研究されているのかな……。
私もそうなるのかなー…。
布団からむくっと起き上がると、カーテンを少し開けて窓の外を見た。
静まり返った住宅街、この家の庭に、ある一台の車が止まったのが見えた。
黒いスーツを着て、手に鞄を持った男性が車から出てくるとこの家のドアを開けた。
「ひっ…」
研究員の人だ……、私を連れていこうとしてるんだ!!
一瞬でパニックになった私は布団にくるまり、部屋を見渡す。
クローゼットを開けて、隙間に入ると扉を閉めた。
階段を上る音がする。
ぎゅっと目を閉じて、見つかりませんようにと願うことしか出来なかった。
研究員の人に見つかれば、終わり…っ
ぷるぷると肩が震えて、声が出ないように口元を手で覆う。
ガチャッ
っ!?
「おや、どうしたのかな?こんなところに入って」
「あ…ああ………」
見つかった。
クローゼットの扉に触れ、きょとんとした表情を浮かべる男性。
頭の中が恐怖で埋まり、なにも言葉が出なくなってしまった。
だけど、すぐにその恐怖心は無くなった。
「えっと、長田真莉ちゃん…だよね?柚希の父です」
「柚希……の…お父さん……?」
「真莉ちゃんを家に1人でいさせるのは心配だから、と柚希に帰ってくるよう頼まれたんだ。大丈夫だったかい?」
「は…い……。すみません…研究員の人かと思って…」
「あはは、無理もないよ。とても危険な状況だからね。うちの会社にも研究員が来てね、部屋を隅々まで調べて双子の会社員をさらっていったんだ」
「え……」
「さあ、出てきていいよ。ここは安全だからね」
「はい…」
そろりとクローゼットから出ると、柚希のお父さんがにっこりと笑った。
その時。
「いたっ!!」
急に腕を掴まれ、部屋から出された。
「本当、都合が良かったよ。双子の子を研究員に渡せば、大金が手に入るんだ。おとなしく施設にいこうね、真莉ちゃん?」
「いやっ!!やめて!離して!!」
「暴れでもしたら、君の命はないよ。ほら」
ナイフを首に当てられ、涙がぽろっと出た。
玄関のドアを開けると、そこに…………私のお母さんがいた。
「清子さん、連れてきました。約束です…僕とお付き合いしてくれませんか」
「その話はまた後ですよ。きちんと施設に連れていかないと」
「お母さん!助けて!!」
私が必死に叫ぶと、お母さんは私を軽く笑った。
「真莉、ごめんね。でも…お母さんを許してね」
「どうして…、こんな……」
「真莉、良いこと教えてあげる。お母さんね、再婚するの。今真莉の後ろにいる直人さんと」
「え……」
「2年前に知り合って、仲良くなったの。でもね…真莉達がいると子育てが大変になるでしょう?そしたらね、すごく都合の良いニュースが放送されたの。それが_____特別感染ウイルスよ」
にやりと笑い、柚希のお父さんからナイフを取ると私に向けた。
「おとなしく研究員にあなた達をつきだせば…大金も手に入るんですって。こんな幸福なこと、もう無いわよね。真莉、ありがとうね。最期に親孝行してくれて」
「嫌だ……お母さん」
「直人さん、研究員の方を近くにお呼びしたので真莉をお願いします」
「わかりました____」
「いやぁぁぁぁ!!!」