「坂上さん、また男子と喧嘩になったんだって?」

噂はねじ曲がって吹聴(ふいちょう)されて、真実だけが埋もれていく。

校長室へと向かう途中、何人かの教師とすれ違ったがその表情には嫌悪感が滲み出ていた。

見るからに高級なシックなソファに腰掛けて、机上に無造作に置いてある退学届けを眺め、

数分後に息を切らして母が到着すると話は淡々と進む。

「私共も幾度かお嬢さんに手を上げた理由を伺っているのですが…この通り、話したがらなくて。」

諦めたように溜息をつく担任の教師は、少し曇る眼鏡を手で押さえてそう告げる。

母は何度も頭を下げ、一度も私と目線を交える事は無かった。

「実はね、里桜のこと…お祖母ちゃんにお願いしようと思ってるの。」

先日の夜中、姉に相談している母の声を耳にした。

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