「音!大家さんにそろそろ着きますって電話してー!」
「はいはい。」

私、園田 音(ソノタ オト)は、園田家の長女で3人兄弟の真ん中に生まれた。小さな頃からしっかり者として育てられた私が一人暮らしが許されたのは、母と父の私に対する評価の高さ故だ。

アパートの前に着き、車に積んだ4つの大きなダンボールと少しの家具を積み込む。

「荷物すくなーーい。あんた本当に色々捨ててよかったの??」

京都に来るにあたり、持ってきた物は必要最低限。服と大好きな漫画、それから趣味の油絵の具と母からプレゼントされたミシンだけだった。

「もっとぬいぐるみとか写真とかさー」
「何持ってきたらいいかわからなかったんだもん。」

実家では、兄弟3人同じ部屋で、インテリアや雑貨を気にしたことはなかった。

ーーーーー。兄弟では一番物が多かったのだけれど。

「それに、写真ならあるよ!!」

車の後ろ座席に引いていた、縦1m、横50㎝程の、大きなパネルだ。

「狭いところに入れててごめんね。」

それは大好きな野球部の部員や、チームの円陣などが映った、去年の夏の大会の記念にもらったパネルであった。

私の青春はそこに全てある。そんな気持ちを込めて、汚れてもいないがパネルの表面を手で払ってから撫でた。