チャイムが鳴り、授業が終わった。
生徒がゾロゾロと廊下へ流れ出る。
普段なら私だけこのまま残り、先生の相手をしなくてはいけない。

「長澤さん!」

隣から声を掛けられる。
普段ならチャイムと同時に教室を出ていく、月方くんだった。

「な、なに?」
「さっきのコレがわっかんねんだけど教えてくんね?」
「えっ…あぁうん」

月方くんが勉強教えてなんてそんな事があるんだろうか、雪でも降るんじゃないだろうか、失礼だけどそんな考えが頭をよぎった。

「おい翠、お前も教えてもらえよ。どーせ理解してねんだから」
「ん?え、ベンキョ?澪が??なんで?どうした?熱でもあんのか?明日雪降んじゃねーか?」
「お前…失礼だな…」

ごめん、私も同じこと思った。なんて言える訳もなく黙ってふたりのやり取りを見つめる。
八草くんが月方くんの前の席へ座る。その横の椅子へ秋穂までも腰を掛けた。

「月方」
「はい?」

先生が月方くんに声を掛ける。

「…電気消してから教室戻れよ」
「わっかりあしたー」
「せんせぇばいばぁーい」

秋穂が可愛らしく手を振る。
先生はニコッと笑って教室を出ていった。
私もこの笑顔に騙されたんだよなぁ。

「んで?なんで俺らは残ったわけ?」

八草くんが月方くんに聞く。

「んあー、長澤さんを悪魔から救うヒーローになろっかなぁって(笑)」
「??」

ニカッと笑う月方くんをよそに、八草くんと秋穂は首を傾げた。

もしかして月方くん、私が授業後に先生に捕まってるの知ってた…?
だからわざと教室残ってふたりきりにさせないように…?