「黒羽くん、雨降ってるから傘を……あっ、黒羽くん!」



最後に会った日にも雨が降ってたっけ。

……あの時逃げなきゃよかった。
ちゃんと向き合って、一緒に結城さん家に帰ればよかった。





「バカですか?」


雨が遮られたと思ったら今度は毒舌が降ってくる。


「榎、本…さん……」

ビニール傘を俺にあて、自分は黒い傘をさしている。



「後悔の顔をしています。…でも今更そんなこと考えたって仕方ないんですよ。」


グサッと効果音でもつくかのように榎本さんの言葉は俺の胸に刺さる。

それら全てが事実だから。




「私たちに今できることは悔やむ事ではない。社長を探し、帰りを待ち、変わらぬ環境でまた受け入れる事です。」



この人だって心配してないわけがない。

心の内は決して見せないけど、秘書という結城さんに近い存在だ。

なによりも、誰よりも心配しているはずなのに……どうしてこんなに強い目でいられるんだろう。