「ごめん……。あのね、灰野くんはファースト……あの、屋上でのこと覚えてる?」


心臓に突き刺さるような衝撃だ。


当時のことが走馬灯のように駆け巡る。バラバラとガラスの透明が目の前を舞い散る光景。


このまま死にたい気持ちになるようなあの思い出。



覚えてないわけがない。



「覚えてるけど、思い出したくない」



「……そうだよね」


視線を落とした藍田さんの隣で、ナギがふっと息を吐く。

今あいつ笑った?


「灰野くんは、あれ忘れたい?」


俯いた藍田さんがやけに明るい声で問う。


「忘れたいっていうより、忘れてほしい」


いたたまれない。消えたい。




ーーあの屋上で。


藍田さんを救ったナギ本人の前で、なんでその話を蒸し返すんだよ。



「もうこの話よくない?俺行くね」



忘れていいよ、俺のことなんか、全部ね。