「ほらほらぁ。伊吹がもたもたしてるから、ナギが行っちゃったよ?」


山本が指さす方に目をやった。


自由に席を立つ生徒に紛れてナギが藍田さんの傍に立っている。そしてその肩を優しく揺らしはじめた。



……ナギ。
藤原凪砂(ふじわら なぎさ)は、俺たちと中学から一緒になった男子生徒。


そして、藍田さんと一番仲のいい男子。


俺と藍田さんは14年目の付き合いになるはずなのに、中1で藍田さんと出会ったナギの方が、俺よりずっと幼馴染っぽい。


「先生ー胡桃具合悪いみたいなんで、保健室連れてきまーす」


ナギのひょうひょうとした姿や間延びした声で俺にはわかる。あいつらサボりだ。


ナギに連れられて、俯き気味に歩く藍田さんは化学室を出て行った。


「あーあ」と山本があきれ顔で肩をすくめる。


「伊吹と藍田さんは似てるんだよね。だからうまくいかないんだよ」


「だから、好きじゃねーし……ってか似てる?」


「好きじゃないわりに食いつくなぁ」


ぷっと噴き出す山本に、俺は深く溜息をつく。


あ、くそ、計算わかんなくなった。
つーかモルってなんなの。


「藍田さんと伊吹はマイナスとプラスで言うとふたりとも完全にマイナスなんだよなぁ」


何言ってんのこいつ。


「マイナスとマイナスじゃいれるもんねーだろ。本来伊吹プラスなんだよ。押して押して押し倒せばいいじゃん?」


「チャラ男のいう事って男でも理解できないもんなんだな」


脳みそ下ネタでできてんの?


「ダサいとかいってるけどさぁ。なんもしない今の方がダサいって」


「うざ」


「とりあえずナギから奪えばそのチキンハートでも火がつくんじゃない?」


ディスられすぎていい加減ビビるわ。